特にプライベート・チャーター機ハンドリングにおいては、発着枠であるスロットと、駐機場所であるスポットの取得はハンドリングの中でも最も重要な要素です。
コンテンツ
スロットとスポットの取得方法
航空局(例えば羽田では航空管制運航情報官という部署)に空き状況を紹介し、空港使用計画書という書類をFAXで送信してスロットとスポットの取得作業を行います。
この作業自体は難しいものではありません。電話で空き状況を聞いたり、FAXを送信するだけのシンプルな作業だからです。
スロットとスポットの調整作業で難しい点は?
機体オーナーやチャーター主のリクエストに基づいて、希望のスロットを取得するのですが、羽田のような混雑空港では、日中帯のスロットは定期便が頻繁に発着していることで、元々空きが非常に少ないです。その少ない枠からプライベート・チャーター機に割り当てられるので、倍率が高いのです。
深夜早朝時間帯であれば、かなり取りやすいのです。しかし、この時間を希望する人は、特に近距離の東アジアや東南アジア方面出発への出発の場合、少ないです。
そこで最初はやむを得ず、希望と大きく離れた時間のスロットを押さえておき、航空局に問合せを毎日続けて空きを待つという作業を行います。スロットとスポットを割り当てているのはあくまで航空局ですので、ハンドラーとしてはその判断自体に介入する余地はないのです。
また、希望のスロットやスポットが取得できても、スポットの間を何度もトーイングで移動しなければならない場合もあります。羽田空港では最大4泊5日の駐機ができますが、その駐機期間の中で、2回や3回のトーイングが必要な場合もあります。
駐機スポットはそれぞれ、どの大きさの機体が駐機できるかということが決まっています。色々なサイズの機体が飛来する訳ですので、それぞれの機体が最大限うまく駐機できるよう、航空局の担当者が割り振ります。
この時間までにN01からN2Bに移動してくださいと言った具合で、担当者から指示があります。これに合わせて、ハンドラーは機体のトーイング作業をグラハン会社に発注します。
ハンドラーの腕の見せ所
こう言ってしまっては、ハンドラーはただの仲介役だけかと思われるかもしれません。しかし、問合せを続けることで、無事希望のスロットが取得できたことも、決して珍しくありません。
機体のトーイングが多い場合も、粘り強く問合せを行います。当初2回トーイングが必要だったのが、トーイング不要になったケースもありますので、粘ったもん勝ちと言えます。
どうしてもスロットやスポットが取れない場合、羽田希望のPAXであれば、成田を勧めます。もう一つ、乗降時だけは羽田を使用し、機体を成田にフェリーするという手段も使います。
この機体フェリーによるハンドリングについては、以下の記事をご参照ください。
つまり、ハンドラーはあらゆる方策を講じて、PAXの利便性とサービス向上を計ることができるのです。
DLYの場合の調整方法
プライベート・チャーター機にも、勿論DLYがあります。PAXの空港SHOW UPが遅れたり、ATCによる遅れがあります。大幅なDLYの場合、航空局からスロットの変更を求められることがありますので、これに応じて空港使用計画書を再提出し、スロットを変更する場合があります。
以前、羽田の日中帯の便で大幅DLYとなった到着便がありました。変更先のスロットがそもそもないのでは?と心配したのですが、結局スロットの変更はなく、無事到着できました。
流石に離陸してしまえば、受け入れないということは基本的にないということで、安心した記憶があります。
定期便のスロット・スポット調整は?
定期便の場合、毎日スロットとスポットは固定されています。しかし、様々な要因でDLYが発生しますので、その場合は調整が必要な場合があります。
羽田では特にPBBスポット(ボーディングブリッジのあるスポット)の使用スケジュールはタイトに詰まっています。あるスポットに入っている便の出発が遅れると、後便が入れなくなってしまいます。この場合、次便を別のPBBスポットに割り当てるか、それができない場合は沖止めスポットになってしまいます。
こうした場合、プライベート・チャーター機の場合と同じように、空港使用計画書を提出して調整します。この作業を行うのは、オペレーション部署ですので、グランドスタッフが関係することはありません。
私も、羽田空港のスポット使用スケジュールが記載された、「スポットアサイメントチャート」というものを見て調整をしたのですが、定期便のものは特にぎっしりと詰まっており、パズルみたいだなと思った記憶があります。
前便が出てから後便が入るまでの最小間隔は30分に設定してあり、混雑時間帯のDLYだと調整が大変です。PBBゲート使用予定が、沖止めになってしまうとランプバスの手配も必要ですので、この場合は旅客部門でも調整が必要となってきます。
このように、定期便のスロット・スポットの調整はイレギュラー対応を目的としたものとなります。
まとめ
何かと大変なスロット・スポットの調整ですが、私は結構面白味を感じられる業務でした。グランドスタッフ時代は、スロットという用語は知っていたものの、調整に直接関わることはありませんでした。
プライベート・チャーター機のPAXが希望通りの時間に発着できるとき、そこにはハンドラーの努力があってこそなのだと実感した作業でした。定期便と比べると、プライベート・チャーター機の運航はそもそもイレギュラーの連続だと言うことができます。調整に継ぐ調整の上でそれぞれのフライトが成り立っており、この点が非定期便の難しさであり、面白さなのです。
コメント
いつも興味深く読ませていただいております。
羽田空港のスロット・スポットに関して、恐縮ですが質問がございます。「前便が出てから後便が入るまでの最小間隔は30分に設定してあり」とありましたが、実際に見てみると、もっと狭い間隔で運用されているようにも見えました。少なくとも国内線第1ターミナルのPBBでは、10分間隔でアサインされている例が、自分の調べではありますが見られました。これは、後で変更されたのでしょうか。それとも、これは記事に記載されていなかった例外的な事案でしょうか。
この手の運用に関する知識が乏しいもので、的を外した質問かもしれませんが、ご回答いただけたら幸いです。
お読み頂き誠にありがとうございます。
また、返信が大変遅くなり申し訳ございません。
30分の間隔の記述ですが、私が勤務しておりました2018年当時の国際線スポットの運用です(説明不足で申し訳ございません)。
当時業務で使用しておりました国際線スポットのアサイメントチャート(どのスポットにどの便が割り当てられいるかの横長の表)を見ましたところ、便間には最小でも30分のインターバルが設けられており、そのように記述いたしました。
国際線は長距離便も多く、遅延または早着が国内線のそれよりも幅が大きく、ご指摘の国内線の10分間隔のアサインではやりくりが煩雑になるからと考えられます(国内線の10分間暇アサインの件、ご教示頂きありがとうございます。)
また、ターンアラウンドタイム(到着から出発までに要する時間)も国際線のほうが長いこともその要因であると考えられます。
※現在はコロナ禍を経てスポット運用における、便間インターバルが変更になっている可能性もあります。
そのような事情からも、国際線では現在でも30分またはそれに近い間隔で運用されているものと思われます。これに関しては、私ももう少し調べてみます。